中国という平和発展モデル その2

 11/3、第5回「どうしたら戦争をなくせるの?」討論集会が“中国という平和発展モデル”をテーマに開催された。このテーマは前回から続くもので、山橋宏和さんより「中国という平和発展モデル その2」 (論考:山橋宏和・下に掲載)の解説があった。

 また、青島在住の平山邦孝さんから中国の最新事情を新たな映像と切り口で紹介して頂いた。

 “中日友好人民アクション”日本専門家・学者訪中団に参加した私(伊関)からは、訪中報告を行った。 (報告:伊関)

 

 

中国という平和発展モデル その2

山橋宏和

 前回は中国の「自力更生」の経済、貧困対策の特徴などについて述べました。今回は、そうした中国国内の経済政策と対外的な経済政策の関連について、中国がアフリカや東南アジアで行っている経済活動を見る中で、中国の経済思想についての理解を深めたいと思います。
 そこでまず、前回配布した「中国という平和発展モデル」という資料の中で、経済問題について述べている箇所について簡単に要約しておきます。
 1949年、日本軍国主義を叩き出して中華人民共和国を建国し、まったくの廃墟から出発するしかなかった新中国を待ち受けていたのは、欧米、日本などからの経済封鎖という過酷な仕打ちでした。しかし中国の人々はそれにくじけることなく「自力更生」「刻苦奮闘」のスローガンのもと経済建設に邁進しました。
 中国は欧米や日本のように、他国を侵略して資源を奪って成長してきた国ではありません。
 帝国主義は周辺を略奪することで自国だけが富み栄える経済です。中国はそれとは真逆で、日本を含む欧米帝国主義から侵略され、新中国建国後も経済封鎖されたがゆえに、自国の中にあらゆるサプライチェーンを構築することで生き延びてきました。世界を一つの人類共同体と考え、世界全体の平和と繁栄を構築するという立場で考えるなら、当然のことながら、そこにはもはや侵略の対象となるような周辺はありません。中国が構築した自力更生の経済発展モデル、周辺のない経済発展モデルこそ、これから世界が協調して平和的に発展していくモデルなのです。なぜ、西側の政治学者や経済学者は、この中国の発展モデルに真剣に学ぼうとしないのでしょう!?

1、 世界一の生産力

 中国は今や世界の工場と言われ、ほぼすべての製造業で世界最大級の生産能力を持っています。生産スピードでも価格力でも他の追随を許しません。アメリカに経済制裁されている国はけっこうありますが、中国とさえ貿易できればあらゆる工業製品を輸入することができます。中国はレアアース、レアメタル、アルミや銅などの重要鉱物で圧倒的な世界シェアを持っています。中国はこれらの鉱物の輸出規制によって、アメリカなど侵略国の武器生産にブレーキをかけ、戦争のエスカレーションを遅らせることもできています。

2、共同富裕、絶対的貧困の撲滅

 中国経済が国内経済で目指す大きな目標は「共同富裕」ですが、その初歩的な段階として2020年、「絶対的貧困の撲滅」を達成しました。これについて国連のグテーレス事務総長は「中国が世界最大の貧困削減を達成したことは、世界的な貧困削減の歴史において最も偉大な貢献の一つである。」と高く評価しました。
 国連や世界銀行の推計では、中国が1978年に「改革開放」政策を開始してからの約40年間で、8億人以上が絶対的貧困から脱出しました。単一の国においてこれほど短期間に、これほど膨大な人数の貧困を削減した例は人類史上初めてです。同じ時期に世界全体で達成された貧困削減人数のうち、約75%を中国一国が占めています。
 習近平氏が2021年に「絶対的な貧困から完全に脱出した」と宣言したときの説明では、“精准扶贫”政策が本格始動した2013年から2020年までの8年間で約1億人が貧困から脱出したということです。
 “精准扶贫”jīngzhǔn fúpín(ジンジュン・フーピン)というのは、「精密・ターゲット型の貧困扶助」という意味で、中国の貧困対策の基本的な考え方です。「誰を、どの政策で、どう支援するか」を精密に調査研究して、個々具体的な貧困削減政策を実施します。その人が実際に貧困から脱出したかどうかを検証する過程まで含みます。
貧困対策は日本では失業対策や生活保護に矮小化され「社会的な負荷」としか考えられていません。それと対照的に中国では「貧困撲滅」を社会経済発展のための新しいフロンティアとしてとらえています。ここが日本の「貧困対策」と根本的に異なる点です。

3、「共同富裕」を世界全体に押し広げる~その経済合理性について

 ここからは、本日のテーマです。
 中国で語られる「共同富裕」という思想は、「成長の果実を一部の人々だけでなく、社会全体すべての人で分かち合い、共に格差なく豊かになろう」という思想です。これを実現するためにまず行っているのは所得の再分配です。富裕層への課税を強化し、アリババなどの超富裕企業には砂漠緑化などの仕事に資金を出させて農民の雇用を生み出しています。低所得層向けの格安の賃貸住宅を大量に建設し、医療や教育で公的な支出を増やし、個人の負担を軽減しています。
 この国内における「共同富裕」を、国際的にどのように押し広げようとしているのか?

 アフリカやアジア、ラテンアメリカの国々に、「包摂的成長」や「ウィンウィンの関係」を呼びかけ、自ら培った生産力そのものを移転し、国内で「絶対的な貧困撲滅」で行ったように、「魚を与えるのではなく、漁の仕方を教える」方法で農業や工業を支援しています。
 ここで「包摂的成長」というのは、一部の国や大企業だけでなく、開発途上国や中小企業、一般労働者も含めた「誰も取り残さない経済成長」を目指す考え方です。

 「ウィンウィンの関係」は、ビジネスシーンでよく使われる言葉ですが、中国政府が外交の場で使う場合は少しニュアンスが異なると思います。まず、「うちの国とあなたの国の二国だけで儲けましょう」という意味ではないということ。「世界全体で共に成長しましょう。」という意味だと思います。また、その背景にはさらに強い意味が込められていて、「あなたの国が成長しなければ私の国も成長できないし、私の国(中国)が成長しなければあなたの国(あるいは世界全体)の成長もないでしょう。」という考え方があります。

 世界経済は今や密接に結びつき依存しあっているので、一国だけが経済成長することは不可能です。また、一国の経済危機もたちまち世界に波及します。中国の「包摂的成長」、「ウィンウィンの関係」という考え方にはほとんどの人は賛成でしょう。
 ただ国によって温度差は大きく、植民地主義的な考え方が濃厚な日本を含む西側諸国では概ね冷笑的ですが、世界全体の経済成長からまだ取り残されているアジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々は熱く支持しています。
 欧米は何故、冷笑的なのか?それは、欧米諸国(植民地主義国、帝国主義国)が生産活動をする目的は、自国、あるいは自企業が儲けるためであって、ほかの国などどうでもよい、たとえ他国を犠牲にしても自分さえ儲けたらよい、という考えだからです。戦争が絶えないのも必然です。
 それは、中国が「世界の工場」になった経緯を見てもわかります。
 1978年に鄧小平氏が名誉回復して表舞台に再登場すると経済建設重視に舵を切り、1992年の「南巡講話」を経て、2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟すると、外国企業は怒涛のように中国に押し寄せ、中国は一気に「世界の工場」になりました。
 外国企業にとっては、中国の安い労働力、高い教育水準、大きな市場。これらが極めて魅力的だったことは間違いありませんが、より本質的な資本の要求として、製造過程を中国に移すことで、より高い利益を出そうとしたのです。

 どういうことか?

 製品ができるまでの工程とそれぞれの工程における利益率を表す概念に「スマイルカーブ」があります。
 横軸に製品の工程(上流・中流・下流)、縦軸に利益率をとってグラフを描くと、真ん中が落ち込んで両端が高くなり、笑った時の口元のようなカーブになることからこのように呼ばれます。
 欧米資本は自社の利益率を最大化するために、研究開発や設計は自国、自社で行い、利益率の低い製造工程は外国に委託し、販売は自社でやるというモデルを作りました。

 

 アップルやマイクロソフト、グーグル、エヌビディアなどは自社の製造工場は一切持っていません。製造工程はすべて中国やインド、東南アジアなどの外国企業に委託しています。
 つまり、中国が「世界の工場」であるということは、これら世界の巨大企業によって搾取されているということでもあるのです。
2000年代から2010年代の初頭のころ、中国で自嘲的に言われたのは「8億枚のシャツで1機の旅客機を買う」というフレーズです。中国人民が多大の労力と資源を費やして8億枚のシャツを生産しても、それで買えるのはフランスやアメリカの旅客機1機だけ、という徒労感を表現しています。
 それでも中国政府は生産性が一定向上したことから、2010年代の初めごろから労働者の最低賃金を年率10~15%で急速に引き揚げ始めました。すると製造コストも上昇し、外国資本がより賃金の安い東南アジアへ移転するという流れが出てきます。(いわゆる「China+1」の流れですが、これは中国に依存したくないということでもあり、中国から完全には離れられないということでもあります。どんな部品でも全部、近距離でそろってしまう中国のサプライチェーンの利便性には、強烈な吸引力があります。)

 2015年中国政府は、「賃金の安さで勝負するのではなく、ハイテクを駆使して生産効率を高め、質の高い製品をより安価に生産する」という戦略を打ち出しました。それが「中国製造2025」です。「世界の安価な下請け工場」から「世界最高水準の製造強国」へと成長させるための10か年国家戦略です。欧米依存からの脱却と世界のリーダーシップ獲得を目指し、10の重点分野を指定しましたが、その重点分野とは、EV、リチウムイオン電池、太陽光パネル、ドローン、高速鉄道、新素材、バイオ・高性能医療機器などの各分野です。今の中国の現実は、10年前に立てたそれらの目標が、完璧に達成されたことを証明しています。外国の金融資本は中国を、自分たちのために卵を産み続けてくれるニワトリ小屋にしようとしましたが、その目論見は見事に失敗しました。
 トランプは「中国の貿易黒字」を非難して高関税政策を発動しましたが、「中国の貿易黒字」の中には、テスラやアップルが中国で製造して中国以外の国に輸出した車や半導体の販売益も含まれます。もちろん、トヨタの中国工場から中国以外の国に輸出した収益も「中国の貿易黒字」に換算されます。トランプの高関税政策では、アメリカ国民はもちろん、アメリカ企業をも収奪することになります。アメリカ国内で物価高をまねき、自滅的に失敗することはわかっていました。
 欧米は中国の巨大な製造能力を「過剰生産力」として非難しますが、中国側は、「需要と供給を国単位ではなく世界全体の視野で捉えるべきだ」と主張しています。実際、欧米が自ら招いた石油危機により、中国の太陽光発電パネルやEVは急速に出荷量を伸ばしています。これは中国の製造業が世界規模のエネルギー危機を救い、さらには化石燃料からグリーンエネルギーへの転換を促しているのです。天に唾するとはこのことです。

 これからの課題は何か?

 たしかに中国は欧米金融資本のニワトリ小屋にはなりませんでしたが、アフリカや東南アジア、ラテンアメリカなどの国々が欧米のニワトリ小屋になったのでは、中国の労働者の賃金も、いま以上に上げることはできません。中国の製造業を維持するためには、国際的な価格競争力を落とすことはできないからです。
 世界のどこかに奴隷労働、不当な搾取労働があるかぎり、世界全体が豊かになることはできないし、中国自身もこれ以上豊かになることはできません。欧米は何の根拠も示さずに「新疆で奴隷労働を行っている」「チベットの人たちを抑圧している」と中傷していますが、これは経済合理性から言ってもありえないのです。中国式平和発展モデルとは、国内においても世界全体においても、共に豊かに発展するモデル、共に豊かにならなければ自分たちも豊かになれない経済発展モデルなのです。
 スマイルカーブの底を押し上げるには何をすることが必要なのか?つまり、汗水流して働く労働者が、どうしたらその働きに応じた収入を得ることができるのか?これはすべての国の、すべての人々にとって重要なテーマです。

4、中国は世界のリアルな現場でこれをどう実践しているか?

 中国が世界の国々とどのようにかかわっているのか? 世界の人々から中国はどのように見えているのか? 重要だと思う事例をいくつか紹介します。

~ キューバへの太陽光パネルの支援 ~

 キューバと中国の間で太陽光発電関連機器の調達や無償資金協力(寄贈・支援)に関する合意が加速し、全国規模でのメガソーラー整備が本格的にスタートしたのは2024年初頭、2年半ほど前です。計画では、2028年までに全国92カ所にメガソーラーパークを建設します。総発電量は2,000 MW(2 GW)で 、これはキューバ全土の約150万世帯(全世帯数の約4割に相当)の電力をカバーできる規模であり、キューバの従来の化石燃料発電容量の大半に匹敵する極めて大規模なプロジェクトです。

 

 目標の92カ所の発電所のうちすでに50カ所以上が完成し、送電網に接続されています。キューバ政府は2028年までに92箇所全施設の稼働を達成し、2030年までに国内電力の24%以上を再生可能エネルギーで賄う目標に向けて急速に工事を進めています。

 このように、中国製の太陽光パネルや関連機器が広大な敷地に平易な構造で次々と設置されており、新たなクリーンエネルギー源として急ピッチで稼働を進めています。大規模ソーラーパークのほかに、送電網が届かない山岳部や農村部用、停電対策が必要な医療機関や高齢者施設用に、小規模・独立型の太陽光発電キットも数万世帯分、これも無償供与されています。「大型ソーラーパーク」と、「小型独立ソーラーキット」という2本柱の支援が特徴です。アメリカは今年初頭からキューバに対して厳しい経済制裁を行い、キューバ国民を絞め殺そうとしています。食糧も石油もほとんど輸入できない状態で、史上最大級の危機的な状況ですが、中国やメキシコ、ロシア、ベネズエラなど友好国の支援で、何とかギリギリ持ち応えている状態です。

5、アフリカへの支援

 1955年4月18日から24日までインドネシアのバンドンで第1回アジア・アフリカ会議(バンドン会議)が開かれました。
 この会議にはアジア・アフリカの29か国が参加し、当時独立を果たしたばかりの国々が中心となって、植民地主義への反対や平和共存を訴えました。会議で採択された「バンドン十原則」は、その後の非同盟運動の思想的基盤となりました。 1960年代に入るとアフリカで次々と独立国が誕生しましたが中国はこれら新興独立国を「反帝国主義・反植民地主義の仲間」と位置づけ、積極的に外交攻勢をかけました。特に1963~1964年に周恩来首相がアフリカ10か国を歴訪したことは大きな転機となりました。

 中国のこのころのアフリカへの支援で有名なのはタンザニア・ザンビア鉄道です。タンザニアのダルエスサラーム港とザンビアを結ぶ約1,860kmの鉄道で、1970年に着工し、1975年に開通しました。中国が資金・技術・労働力を提供しました。
 当時のザンビアは銅を輸出する内陸国でした。しかし、南アフリカの港への輸送路は白人支配下のローデシア(現在のジンバブエ)に対して国連が制裁したために閉ざされ、ザンビアは新しい輸送路を建設する支援を国際社会に求めました。欧米もソ連も協力してくれませんでしたが、中国は協力を即答しました。

 中国の国内経済は当時非常に厳しかったにもかかわらず、タンザニア経由の新たな出口を建設し、アフリカ諸国の経済的自立を支援しました。
このほか中国はアフリカの各地に、農業実験場、灌漑施設 、農業技術者派遣などの支援を行いました。タンザニア、マリ、ギニア、ガーナへの農業技術協力が有名です。また1960年代から医療チームをアフリカへ派遣し、医師派遣、病院建設、薬品提供などを行いました。
教育面では、奨学金の提供や留学生の受け入れ、教員の派遣も行いました。
 中国のアフリカへの支援の原型は1960年代にすでに出来上がっており、基本的なスタンスは今もほとんど変わっていません。

 FOCAC(中国アフリカ協力フォーラム)は2000年から3年ごとに開催されており、毎回「行動計画」が採択されます。

回 年・開催地 主な決定事項
第1回 2000年 
北京
FOCAC発足。貿易拡大、債務軽減、人材育成の開始
第2回 2003年 
アディスアベバ
中国企業の対アフリカ投資促進。産業・医療協力を拡大。
第3回 2006年 
北京
中国・アフリカ関係を戦略的パートナーシップへ格上げ。大規模融資基金設立。
第4回 2009年 
シャルム・エル・シェイク(エジプト)
インフラ建設支援、農業技術センター設置、債務免除拡大。
第5回 2012年 
北京
中国の対アフリカ融資を大幅増額。産業化支援を重視。
第6回 2015年 
北京(首脳会議)
「産業化・農業近代化・インフラ」の10大協力計画を発表。約600億ドル規模の支援表明。
第7回 2018年 
北京(首脳会議)
一帯一路とFOCACを本格連結。デジタル経済・安全保障協力を強化。約600億ドル支援継続。
第8回 2021年 
ダカール(セネガル)
コロナ後の経済回復支援。ワクチン供与、グリーン開発、デジタル協力を重視。
第9回 2024年 
北京(首脳会議)
AI・デジタル化・グリーンエネルギー・産業高度化を重点化。今後3年間の協力計画を採択。

 

 欧米や国際金融機関(世界銀行など)の援助は、人権問題やガバナンス改革などの条件付きが多く、インフラ投資への融資はなかなか進みませんでした。しかし中国の支援は「迅速かつ政治的条件をつけない」姿勢で行うため、インフラの劇的な整備が進みました。

流通・物理的インフラの飛躍的改善
鉄道、道路、港湾、空港が整備されたことで、国境間や都市と農村間の物流コストが大幅に下がり、域内貿易や経済活動の活性化に貢献しました(例:ケニアのモンバサ・ナイロビ標準軌鉄道など)。

エネルギー・通信基盤の拡大
発電所や送電網の建設により、製造業の稼働や市民生活に必要な電力供給が拡大しました。また、ファーウェイやZTEなどの通信インフラ提供により、モバイルネットワークやフィンテック(モバイル決済)の急速な普及を後押ししました。

直接投資(FDI)と産業集積の誘発
インフラが整ったことで、中国企業をはじめとする外国企業の直接投資や製造業の拠点が形成され、工業化の足がかりが作られました。

6、 いわゆる「債務の罠」について

 中国の「一帯一路」は「債務の罠」という西側のプロパガンダの象徴的な事案とされる「スリランカのハンバントタ港」の件について、最近、重要な調査報告がされています。
 米国ジョンズ・ホプキンス大学のデボラ・ブラウティガム教授とハーバード・ビジネス・スクールのメグ・リスマイヤー准教授が、2021年2月6日にアメリカの月刊誌『The Atlantic』(ウェブ版)にて発表した詳細な調査研究により、「中国が意図的に借金漬けにして港を奪った」という従来の言説は誤りと指摘されています。

(港の建設を強く望んだのはスリランカ側)
 中国側から罠を仕掛けたわけではなく、スリランカ政府(当時)が地元の開発を狙って国際機関や西側国に打診したものの断られ、最終的に中国へ融資を依頼したのが経緯です。

(売却理由は「対中国の借金」だけではなかった)
 スリランカが当時抱えていた対外債務のうち、中国からの借入割合は約10%程度にとどまっており、大半は西側の金融市場で発行した国際金融債(ユーロ債)や世界銀行・アジア開発銀行からの融資でした。スリランカ政府は中国以外の多額の返済資金(外貨)を確保するために、港の運営権を民間売却して外貨(約11億2,000万ドル)を得る判断をしたのが真相とされています。

(中国企業が「借金帳消しと引き換えに奪った」わけではない)
 運営権を買収したのは中国の国有企業(招商局港口)ですが、これはスリランカ政府に対して現金を支払うビジネス取引(合弁事業の形態)として行われました。借金と港の権利を直接「相殺(差し押さえ)」したわけではありません。

(ハンバントタ港の「現在の稼働状況と収益」)
 「開港当初は『ガラガラのゴーストポート』で大赤字だった」というのは事実ですが、2017年の中国企業への運営移管後は急成長を遂げており、近年は好調な業績を見せています。

(貨物取扱量の急速な増加)
 大手港湾運営ノウハウを持つ中国企業(招商局集団)の主導のもと、自動車の積み替え(Ro-Ro船)や燃料給油(バンカリング)、LPGターミナルの誘致などを積極的に推進しました。その結果、貨物取扱量は毎年大きく増加しています。

(商業的な成長)
 近年の統計でも、前年比100%超の大幅な貨物成長率を記録するなど、インド洋における主要な中継港・燃料補給拠点としての存在感を増しており、「現在では順調に利益を生む港へと変貌しつつある」という見方が強まっています。 中国の不当な計画的搾取ではなく、スリランカ側の乱脈な財政管理と西側民間債の返済難が原因であり、運営移管後の港自体は商業的に成功しています。中国は運営権を乗っ取ったのではなく、大手港湾運営のノウハウを指導してスリランカ側にも利益が出るように指導したというのが実情です。

(アフリカにおいても「債務の罠」は誤り)
 アフリカにおける債務問題でも「債務の罠」と言われることが多いですが、アフリカの国が抱える債務全体に占める中国からの債務は12%で、欧米の民間金融機関からの債務は35~42%です。国際金融機関(世界銀行やアフリカ開発銀行など)が35~40%です。その他(中国の公+民、西側のパリクラブなど)は10%前後。利息は国際金融機関が0~1%、中国が2~3%、欧米民間が5~7%です。

 チャタムハウス(英国王立国際問題研究所)は、2020年に公表された報告書 “Debunking the Myth of 'Debt-trap Diplomacy'” 「「債務罠外交」の神話を打ち破る」のなかで、
「債務の罠」説(中国がわざと返済不能なローンを組ませて資産を強奪しているという見方)は事実ではない「神話」であると明確に否定しました。

 ジョンズ・ホプキンス大学「中国・アフリカ研究イニシアティブ(CARI)」の デボラ・ブラウティガム(Deborah Brautigam)教授らの研究チーム(前出)は、数百件に及ぶアフリカでの中国系融資契約やデフォルト(債務不履行)事例を詳細に検証しました。 その結果、「中国の銀行が返済滞納を理由にアフリカ諸国の港湾、空港、鉄道などの重要インフラを差し押さえた(担保権を行使して没収した)実例は確認されていないと報告しています。
 むしろ中国は資産を接収するのではなく、債務の繰り延べ(返済猶予)や利子の減免、債務改定(リスケジュール)で対応するのが一般的であると指摘しています。

 オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所(Lowy Institute)は、太平洋島嶼国や発展途上国における中国の融資動向を調査。
 中国が「意図的に過剰な債務を抱えさせて支配力を高める」という戦略をとっている証拠は見当たらず、むしろ融資査定の甘さや管理不足といった「構造的・実務上の問題」による側面が大きいと分析しています。

7、サヘル地域の最近の動向と中国のかかわり

 

 アフリカの最近の大きな動きとして、サヘル地域(サハラ以南のサバンナの地域)がフランスの植民地主義を追放して主権を回復している動きを見ておきます。

 下に関連動画のURLを貼っておきます。設定(歯車の形)をクリックして「字幕」「自動翻訳」で日本語を選択して視聴してください。なお、この動画の最初の方に出てくる「ナイジェリア」「ニガ」などと機械翻訳されている国名は「ニジェール」を指していると思われます。 動画の視聴は「日中友好ネット」の本記事から入ってください。
 

サヘル地域主権回復・フランス植民地主義追放 ⇦クリックしてご覧ください。

 アフリカのサヘル地域(ブルキナファソ、マリ、ニジェール)は、2022年から23年にかけて、あいついでフランス軍やフランス企業、米軍(ニジェールには巨大な米軍基地があった。撤退完了は2024年8月。)を撤退させ、フランスやアメリカの政治的、経済的影響力を排除して主権を回復しました。ウランや金などの鉱山を取り戻し、その収益を農業や教育、医療の充実に振り向けています。フランスやアメリカの権益を排除した後、中国やロシアとの関係を強化しています。上の動画ではサヘル諸国が主権を回復し、フランスの軍隊や企業を追放したことで、フランス経済は大きな打撃を受けたと言っています。2023年7月にニジェール新政権がフランスへのウラン輸出を停止したため、フランスの国有原子力大手Orano(旧アレバ)は鉱山運営の停止を余儀なくされました。フランスは代替調達先をカナダやカザフスタンに求めざるを得なくなり、エネルギーコストが40%以上上昇しました。

 

下の世界地図は面積の比率を正確に表現しています。(ガエル・ペータース図法)

 エールフランスは長年サヘル地域とヨーロッパ間の路線をほぼ独占していましたが、サヘル諸国は同社の乗り入れを禁止する措置を取りました 。現地事務所を閉鎖して実質的に撤退した結果、エールフランスは6500万ユーロの損失を報告しています。

 サヘル新政権は、これまで旧政権がフランスの鉱山企業に与えていた金、リチウムなどの重要な鉱物資源の採掘権を取り消し、事業の国有化を進めました。
 マリはフランス企業を排除し、ロシアや中国の企業と新たに提携を結んでいます。ブルキナファソは2018年に台湾と国交を断絶し、中国との貿易を急拡大させています。数年前までこれらの国は世界最貧国のグループに属する国でしたがブルキナファソは数年で穀物自給率を130%にまで拡大させました。ニジェールは国土の80%がサハラ砂漠であるため、現在も農業生産が難しい状態で、ブルキナファソはニジェールへ余剰生産物を優先的に輸出しています。

 マリ、ニジェール、ブルキナファソ3カ国の指導者たちは、当初の臨時軍事政権という枠組みを超え、サヘル国家連合(AES)としての強固な結びつきを「制度化」し、西アフリカ地域との新しい関係構築に進んでいます。
当初、ECOWASの近隣国は革命が自国に波及することを恐れてサヘル3国に経済制裁を課し、サヘル3国は2025年1月、「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」から脱退しました。しかし一転して2026年10月17日(つい2週間ほど前のことです)、ブルキナファソの臨時大統領イブラヒム・トラオレ率いるサヘル国家連合(AES)と「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」との間で、公式閣僚級対話(セネガルのダカールにて)が開かれ、経済関係を再構築するための各種の協定や作業部会の設置が決まりました。(トラオレ氏(38)は「アフリカのチェ・ゲバラ」と言われたトーマス・サンカラを強くリスペクトしています。「汎アフリカ主義」をかかげ、帝国主義、植民地主義と手を切り、アフリカの自立をめざして経済と治安に力を入れています。西側の形だけの民主主義は「しばらく忘れろ」と言っています。)
サヘル3国はもはやバラバラの国ではなく、リーダーたちの連携により一つの「連邦」に近い形へ急速にシフトしています。 ニジェールのニアメに、各国15名(計45名)の議員からなる「AES連合議会」が正式に設置され、共通の法整備が始まっています。また、独自の経済圏を確立するため、フランス支配の象徴だったCFAフランからの脱却をにらみ、「サヘル投資開発銀行」を設立し、中央銀行間のデジタル決済や通貨の共通化を進めています。
安全保障の面でも、「AES連合軍」を本格的に稼働させ、ロシアやトルコの兵器を用いて、国内のテロ組織や反政府勢力への共同掃討作戦を展開しています。
このように、フランスを追放したリーダーたちは、ロシアや中国の力を後ろ盾にしながら、独自の地域ブロック(AES)としての歩みを確固たるものにしています。

 これら3国を強く結びつけた理由の一つにテロ対策があります。これらの国には国境を利用して「ヒット&ラン」をくりかえす武装グループが存在します。彼らによって農地を追われた農民が国内避難民として多数存在します。武装グループは、フランスが撤退した金鉱山から地域農民を使って残りかすを採掘し、水銀を使った精錬をやって環境破壊を引き起こしています。この収入が行き詰まると、村や学校を襲撃して誘拐し、政府に身代金を要求します。これに対処するためには政府間の連携が不可欠という事情もあります。新政権にとって武装グループ対策は大きな課題になっています。
 ロシアも、過激派対策で軍事顧問団(アフリカ軍団 旧ワグネル)を派遣しています。経済は中国、安全保障はロシアという役割分担をしながら関係を構築しています。

 中国は資源・エネルギー・大型インフラ開発、および実用的な農業技術の移転と食料援助で新政権の国造りを支援しています。新政権ができた当初、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)等の制裁で肥料や資材が不足した際には、サヘル3国に食料援助とともに農機具や肥料を無償・低利で供給しました。
 大型インフラ工事としてはニジェールのアガデム油田からベナンの港へつながる全長約2,000kmの石油パイプラインの工事を資金面と技術面で強力に支援しました。この工事は前政権時代の2019年に着工し、新政権になった2023年に完成しました。

8、リープフロッグ(カエル跳び)発展

先進国が歩んできた「固定電話→携帯電話」や「店舗型銀行→ネット銀行」といった段階的な技術進化のプロセスを飛び越え、最新技術をダイレクトに普及させる「リープフロッグ(カエル跳び)発展」は、昨今のアフリカや東南アジアに見られる普通の経済発展モデルになっています。 現在急速に進んでいる「リープフロッグ」の領域は、まず金融です。 「銀行口座」を飛び越えて「スマホ決済・デジタル口座」が一般的になっています。ケニアでは一気に「キャッシュレス国家」へと進化しました。ベトナムやフィリピンでも銀行口座を持たない世帯がスマホ決済を生活基盤として取り入れています。

 またエネルギー分野では、「大規模発電所と電線網」を飛び越えて「太陽光パネル+分散型ネットワーク」に進んでいます。先ほどのキューバの例もそうですが、アフリカなどの砂漠地帯では、「太陽光パネル+EV、IoT」で一気に最先端のスマート農業、スマート工業をとりいれようとしています。こうした地域には中国は積極的に自国の経験で得たノウハウや技術を提供しています。
 ルワンダでは、舗装道路などのインフラが未整備でも、血液や医薬品などの「医療品物流」を「ドローン配送」で山間部にも即座に配送する体制を構築しました。国全体で「電子政府化」を進めています。

9、AI革命の果実を誰が受け取るのか?

 アメリカと中国の間でAIの開発競争が過熱していますが、AIを社会的に実装するという面では中国が先行しています。インターネットの基地局のシェアを見ると、アフリカではファーウェイ(華為技術)が70%、ZTE(中興通訊)が15%を占め、中国企業が全体の85%を占めています。

 ファーウェイの基地局敷設料は他より20~30%安いので、世界シェアでも50%以上を占めます。フィリピンでも基地局の50~70%はファーウェイの機材を使っています。

 中国のTranssion(伝音科技 トランシオン)は「アフリカのスマホ王」と呼ばれるメーカーです。一般的なスマホカメラは白人やアジア人の肌に合わせて露出調整していますが、トランシオンはアフリカ系の肌や髪の質感をリアルに補正・美しく表現するアルゴリズムを開発しました。また数千円から1万円と格安なこと、音楽好きな民族性に合わせた大音量、高温多湿な気候風土に合わせた防塵設計などで、絶大な人気を獲得し、爆発的に売れています。このトランシオン社のスマホには中国のフィンテック企業が運営する「PalmPay」がプリインストールされています。銀行口座を持たない人が多いため「PalmPay」決済が急速に普及しています。
 こうした通信インフラの普及は、次の段階として、AIを使ったスマート農業やスマート工業を飛躍的に発展させるうえでの土台となるものです。
 ルワンダ、ケニア、ザンビア、マダガスカルなどでスマート農業の実装がすでに進められています。スマート農業は農場の集約化や大規模化ではなく、小規模な農地のまま、品種の最適化やドローンによる施肥や農薬散布を必要な個所だけに行うことにより、高い経済性を生み出す農業です。

 日本にスマート農業、スマート工業が普及しない理由は、既得権益にしがみつく旧来の生産関係にあります。農協を頂点とする、クボタ、ヤンマーなどの大手農機具メーカーの利益に従属する生産システム、トヨタに典型的なピラミッド型のサプライチェーンなどはその典型です。
 こうした生産システムは、個人農家や中小企業の価格決定権を奪うものであり、大企業だけが儲かるシステムで、経済的な合理性を極限まで追求して生産者の利益を最大化しようという生産意欲を阻害します。
 「世界の工場」となった中国のこれからの一層の発展は、中国の経済システムが世界標準になることを意味します。既得権益にしがみつく西側金融資本はそれを恐れているのです。
 中国の巨大資本、アリババやテンセントなどのビックテック企業は中国政府の指導で2021年に「共同富裕」に協力するためにそれぞれ1000億元(約2兆2000億円)を寄付し、その後も砂漠の緑化事業などに積極的に協力しています。中国には「黄金株」という制度があります。中国政府はビックテックの1%の株式「特殊管理株(黄金株)」をもつことで、取締役の指名権や政府が好ましくないと判断した決定に対する拒否権を持ちます。金融資本の暴走を防ぎ人民に奉仕させるためのシステムです。一般庶民には非常に良いシステムですが、日本を含む西側の巨大金融資本には受け入れがたいシステムでしょう。
 

日中友好は私たちの社会を根本から変革していく運動でもあるのです。