いよいよトランプ大統領就任が間近に迫ってきました。トランプの当選確定後、「高関税」という脅しの前に世界中、特にアメリカの「同盟国」が慌てふためき、右往左往している中、唯一中国だけが既に充分な対応策を講じているようです。軍事面に関しては既に本「ニュース№9」で紹介しましたが、今回は“本丸”とも言える経済面についてご紹介します。
誰が大統領になろうと、アメリカの基調が「中国封じ込め」であることは言うまでもありません。特に中国が2015年に『中国製造2025』を発表して以後、アメリカの焦りは頂点に達しています。
オバマ大統領の一言がそれを象徴しています。曰く:「中国が我々と同等の生活水準に達すると、我々はみな“草”を食べざる得なくなる・・・」・・・要は、我々“先進国”だけが「豊かな生活」を送る権利があり、その為には、中国をはじめとする「第三世界」の発展を押さえ込み、永遠に草を食べさせ続けなければならない。と言うことです。
2018年の「貿易戦争」発動と2019年の「先端技術の禁輸」という「中国封じ込め」、「中国の発展阻止」政策はその最たるものであり、その点では、手段の違いこそあれ、歴代大統領は一貫しています。
さて、来るトランプの「高関税攻勢」を前にして、中国政府は12/3に、ガリウムやゲルマニウム、アンチモンなどの希少鉱物の対米輸出を禁止すると発表し、これを米国が先日発動した新たな半導体対中輸出規制への報復であると明言しています。
米政府は半導体製造に使われる装置やソフトウエア技術の中国への輸出規制を強めており、中国との貿易戦争を公言しているトランプ次期米大統領の就任が迫るなかで、中国の対抗措置です。
中国によるガリウム、ゲルマニウム、アンチモンの対米輸出は、中国政府が2023年に出した規制ですでに大きく減少しており、新たな規制ではさらに「軍事目的」での販売が禁止されることになります。
米シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)の研究者は、中国が高性能兵器や軍事システムへの投資を米国よりも速いペースで進めている中で「重要鉱物の禁輸措置は、中国がこれらの能力を開発する上で米国をさらに凌駕することにつながるだろう」と警告していることを伝えています。
昨年EUが出した重要原材料に関する報告書によると、世界の供給量のうちガリウムの94%、ゲルマニウムの90%、アンチモンの56%を中国産が占めています。
中国が他の重要鉱物、特にニッケルやコバルトなどの輸出規制をさらに拡大する可能性もあります。Talon MetalsのTodd Malan氏は「中国は長期にわたってこうした措置を取る意思があることを示唆してきた。米国はいつになったらこの教訓を学ぶのか」と指摘しています。実際、ミネソタ州で唯一稼働しているニッケル鉱山は2028年には枯渇する見通しであり、供給源の確保は急務となっています。
中国の対抗処置はこれに止まりません。11/15中国財政部及び税務総局連名で「輸出退税政策の調整に関する公告」を発表しました。中身は、アルミニウムや銅など一部の輸出「退税(*課税の返還=キックバック)」の取り消しと、太陽光パネルや電池など下方修正するというものです。
これはある意味、トランプの「高関税攻勢」に対する対応としては「矛盾」する政策で、これまで、アメリカの課税に対し、国内の課税を低く抑えて均衡を保っていたものを、逆に輸出価格を実質“高くする”政策と言えます。
中国国内の犠牲の上に立って、より“安く”アメリカに提供してきた構図を“やめる”と宣言するものです。・・・“どうぞ、60%と言わず、いくらでも関税を上げてください”と言ったところでしょう。代替品がない中での「高関税」は、逆にアメリカのインフレを招くという事実は、既に2018年からの「貿易戦争」で立証済みです。
ご承知の通り、レアメタル、レアアースの生産では、中国は絶対的優位を誇っています。種類にもよりますが、世界供給量の80%~90%を占めるものも“ざら”です。
しかし、多少誤解もあるようですが、中国の埋蔵量にこれほど絶対量があるわけではありません。問題は「製錬技術」にあります。アメリカをはじめ、他国でも相当の埋蔵量がありますが、これらは中国に運ばれ、精錬され再び輸出されます。この「製錬技術」は決して“先端技術”ではありません。問題は、精錬にあたっての「環境負荷=高汚染」と「価格対価の低さ」にあります。帝国主義の本性から、アメリカは技術革新でそれらの問題を解決するのではなく、いっそ「第三世界」にその「負荷」を押しつけ、自身は“安い製品”を手に入れ続けたのです。世界の覇権を握るアメリカ等が、将来“首根っこを押さえられる”という心配をするはずもありません。帝国主義の「傲慢」に対する報いとも言えます。
中国は当初の“負荷”を技術革新によって克服し、「低負荷」「高効率」での生産に成功しています。今回の禁輸処置も、一層の「低負荷」「高効率」に役立つことでしょう。
無論、今回の禁輸処置によって、アメリカ等で生産の再開は不可能ではありませんが、しかし、生産再開にあたって、既に設備も技術者も失われている中、相当の時間とコストを覚悟する必要があります。
「先端科学技術」の象徴でもある「半導体」関連技術の封じ込め政策に関しても、中国の対応策はさらに衝撃的です。12/3、「中国互連網協会」、「半導体行業協会」、「自動車工業協会」、「通信協会」の四者が共同で、「今後、供給における安全性と不確定性への考慮から、アメリカ半導体の購入に慎重を期す」と発表しました。
実はこの“民間”による発表に、アメリカ等は先に述べた「希少金属の禁輸処置」以上の衝撃を受けています。この「民間」がキーポイントです。これは「軍事=戦争」における「民間動員」と同じ意味合いを含んでいます。いわば“全面的な臨戦態勢”に近づいたことを意味するからです。
中国はもはや他国のように、トランプの“覇権による脅し”に対し、妥協と調整をする姿勢から、全面対決する決意を明らかにしたと見なされています。「先端半導体(7nm以下)」等の供給を閉ざされても生き残れるという自信の表れです。
中国の輸出品目のビックスリーはこれまで、電動自動車、太陽光パネル、電池でしたが、今やこれに「半導体」が加わります。「えっ?」と思われるでしょう。「半導体」はアメリカによる「先端技術封じ込め」の象徴ですから・・・。実は「汎用(または成熟)半導体(*一般には28nmまたは14nm以下)」のことで、中国が一旦作り始めると、価格が一気に下がり、他国の企業では太刀打ちできないのです。「サムソン」をはじめとする韓・日の関連企業や、インテルやAMD社等のアメリカ企業の業績悪化や、大規模リストラなどが最近の新聞紙面を賑わせているのも実はこの為です。
確かに、「“先端”半導体」分野では今以てアメリカ(+同盟国)が優位にありますが、昨年、真っ先に制裁を受けた「華為(ファーウェイ)」が既に7nmのチップを自主生産したというニュースをはじめ、中国がこの技術を克服するのにそれ程の時間を有しないことでしょう。「半導体“戦争”」も、結局は「宇宙開発」や「電動自動車」の道を辿ることになるでしょう。
何より、中国が政策を発表するにあたって、決して“大風呂敷を広げる”ことはしません。「戦略的には敵を軽視し、戦術的には敵を重視する」の例えの如く、相当な自信の裏打ちを以て、「最悪の事態」を想定して立案するのが中国の一貫した方針です。長期計画は無論、宇宙開発でも、兵器開発でも、中国が滅多に“失敗”しないのはこの為です。
アメリカが他国から「制裁」を受けるのは前代未聞のことでしょう。既にお気づきの方も多いと思いますが、選挙中、「反中国!中国敵視!」を公言していたトランプですが、最初に「高関税」の対象に上げたのは、実に中国ではなく、貿易協定があるカナダとメキシコでした。さらに公式の場で「中国(または習近平)」に対し、好意的な発言が目立つようになっています。「米中が手を結べば、世界のすべての問題は解決できる」とさえ言い出す始末です。
因みに、バイデン政権で、対中国封じ込めの先鋒であったレイモンド・商務長官が退任にあたって:「中国封じ込め政策は結局大きな無駄であった」と発言したことが国際的に大きな話題となっています(*・・・日本は除く)。中国の諺(ことわざ)に、“去りゆく者の言は真なり”というがあります・・・。
トランプ政権の“不確実性”は無論、ますます混沌とする国際情勢にあって、中国の発展路線には未だ紆余曲折があるのは当然ですが、その趨勢に決定的な逆流はないと思います。2025年はその節目の一年になる予感がします。
2025/1/3 墨面 記