「債務の罠」は中国ではなく西側資本が仕掛けた

「債務の罠」は中国ではなく西側資本が仕掛けた

みなさんへ

愛媛の高井です。

現在、政府が、「中国の脅威」を理由にして、そこからの「防衛」の必要を建て前にして、実は、「中国への攻撃ー戦争態勢」の構築を急ピッチで行っていることはご存知だと思います。

このことは、中国が脅威でないこと(ー日本に攻めて来たりはしないこと)が明らかになればーー明らかにすれば、この軍事態勢の構築は社会的に説得力を失い、失速状態へと持っていける可能性を持つ、ということだろうと思います。

このような「構図ーからくり」の中で、中国への「封じ込めー包囲網」構築を正当化し、支持を集めることが必要な、日米を中心とする「西側」政府・メディアは、さまざまな形で、「中国の脅威・無法」を声高に語っています。

先日、開催された「一帯一路」の首脳会議をめぐる報道でも、中国による「債務の罠」問題が、しきりに流されていたようで、そのなかで、スリランカの例を、(事実に反する形で)取り上げている番組もありました。

私自身、海外各国への膨大な件数の中国の投資について、その全貌を把握できているわけではありません。
そこには、問題があったり、成功例も失敗例もあるかと思います。

その中で、中国による「債務の罠」の象徴として取り上げられることが多い、「スリランカの破産宣言(債務不履行)」の問題については、少し調べ、拙著『日米の「対中国戦争態勢」とは何か―東アジアでの戦争を止めるために―』に書きました。

その部分を、以下に紹介したいと思います。「スリランカの債務問題」の原因に、実は、日本を含む「西側」の問題ー存在が大きくあったことが明らかだと思います。

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中国を非難して、「悪者化―悪魔化」する日本・西側の報道の一つに、中国の対外的経済活動についてのことがある。米・NATOのように、軍事侵略―戦争の問題がないから「経済問題」を取り上げることが多いのかも知れないが、このことに関する情報も事実に反した一方的な決めつけが多いように思う。
おびただしい数の投資―経済案件があるなか、その全体を確認する能力はないが、 ここでは、昨年( 2022 年) 、多くの報道がなされた「スリランカの破産宣言」(債務不履行) のことについて記したい。
 この件は、この「破産」原因が中国からの債務(「債務の罠」)にあるといった内容で多くの報道がなされたが、スリランカの対外債務は中国が突出していたわけではない。

上は、「破産宣言」の1年前の2021年のものだが、中国は日本と同額である。また、債務 (対外借入れ)の大半が国際金融市場であることも示している。その状況は、「破産宣言」期も同様で、スリランカの財務計画省対外援助局の発表によれば、同国の対外債務の残高は510億ドルで、その内訳は、国際金融市場からの借入47%、アジア開発銀行13%、日本10%、中国10%、世界銀行9%、インド2%、その他9%である。

日本貿易振興機構アジア経済研究所(地域研究センター 南アジア研究グループ長)の荒井悦代は、「スリランカの経済危機の背景:中国の債務の罠なのか?」というタイトルの分析論稿を発表している。
以下、その抜粋である。

政府の対外債務の内訳は、国際金融機関と二国間からの借り入れが9割を超えていたが、2007年に初めて国際金融市場で国際ソブリン債(ISB)を起債し、5億ドルを得た。それ以降、国際金融市場での借り入れが増えていることが分かる。

そして、中国からの借金は、二国間やAIIB(アジアインフラ投資銀行)、中国輸出入銀行を含めても10%ほどで、日本と同じくらいである。国営企業への融資など政府保証借り入れを含むと20%を超えるとされる。それを加えても、スリランカ政府にとって最も負担が大きいのは、中国からの借金ではなく対外債務の35%ほどを占めるISBである。〔略〕

ISBは、国際金融機関や二国間から借り入れるよりも条件が緩く、スピーディーに調達できる。デメリットは、コストが高いこと、5年から10年後にまとめて返済しなければならないことである。(nippon.com)


 つまり、スリランカの「破産宣言」の原因となった債務の中心は、米・西側の金融資本が主導する 国際金融市場からのものだったのである。また、そのほかでは、世界銀行やアジア開発銀行からの ものも多い。これらは、米日ら西側が主導する銀行である。

 さらに言えば、「西側」諸国・銀行は以下のような歴史を持つことを思い起こしておきたい。
 米・日・西欧の銀行は、1970年代以降、「南」側(第三世界・グローバルサウス)の国々を高利の貸し付けで「債務付け」(債務の罠)にした。そして、返済できなくなって困った「南」側政府に、 「西側(北側)」主導のIMF(国際通貨基金)が内政―財政政策への干渉を条件にして短期融資した。

「構造調整プログラム」という名のその干渉の内容は、食料品への補助金をはじめとする社会福祉費や教育保障費の削減、賃金凍結、国営企業の民営化、各種規制の緩和など、当該国市民に犠牲を強いる形での財政支出削減であった。そうすることによって、「西側」銀行に債務を返済させたのである。
同時に、それは弱肉強食の資本主義市場経済の徹底化であったから、「西側」多国籍企業の投資・利潤追及―経済収奪に有利な環境の形成を「南」側諸国に強いたことを意味したのである。