日本のマスコミがほとんど報じない「ニュース」№18

今回は中国をはじめ、アジアの経済を総観してみたいと思います。

 トランプの再登場で巻き起こる「関税旋風」によって世界中が戦々恐々としている中、その対極とも言える、加盟国相互の関税撤廃を謳う「RCEP(地域的な包括的経済連携協定)」がにわかに注目が集っています。
 このRCEPは2022年1月1日の発効から3年が経ち、ASEAN加盟10カ国を中心に、パートナー5カ国/オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、韓国が加盟する世界最大の貿易協定です。RCEPによって世界のGDPの3割強、人口も3割強を占める広域経済圏が実現し、世界でも多くの注目が集まりました。日本にとっては中国、韓国との間で締結される初の経済連携協定となり、国内でも多くのメディアに取り上げられました。
 今ではほとんど聞かれなくなった「TPP」の規模が世界GDPの12%ほどだったことを思えば、その規模の大きさが分かるでしょう。
 RCEPへの各国の署名はトランプ1.0大統領行(第一期)時代に進んでいます。トランプの「関税攻撃」と“アジア地域軽視政策”の“お陰?”かも知れません。
 かつて日・中・韓が進める「貿易協定」はアメリカの妨害で遅々として進まず、ようやく成立しかかった途端、いわゆる「尖閣での漁船追突事件」が画策され、締結に至らなかった苦い経験があります。

 この3年間、互いに安価な原材料と、広大な市場を得ることによって、すでに加盟国に莫大な経済利益をもたらしています。今日、「ASEAN」は欧米を凌ぐ、世界で最も活力ある地域であり、世界の中心が「アジア」に向かっていることは世界が一致して認めるところでしょう。
 先端技術が未達成で、第四次産業革命がまだ未完の中、15の加盟国を一つに結びつける役割を中国が担っています。このASEANの興起という現実の前に、「債務の罠」とはよく言えたものです。

 ここ数年、中国はいわゆる経済の「内循環」を基調とし、「外循環」を補完とする経済政策を推し進めていますが、RCEPはいわば「外循環」の重要な要(かなめ)と言えます。
 アメリカ発の世界的な金融恐慌が起こった2008年当時、中国の総貿易依存度は実にGDPの68%を占めていました。典型的な「輸出主導経済」です。その内、アメリカ経済圏(アメリカ、ヨーロッパEU、日本)が41.2%(GDP比率で28.84)を占めるに至っています。
 その為、2008年の「金融恐慌」に際し、中国はアメリカの要望に沿って強力に「ドル買い」を進め、アメリカ経済を救ったのです。アメリカを助けることは中国自身を助けることでもあったのです。

 ところが、今日こうした構造に大きな変化が生じています。
 今日では、中国の対外貿易依存度は32%までに低下し、アメリカ経済圏への依存度も32.1%にまで低下し、GDP比率ではわずか10.2です。2008年当時と比べると約1/3に過ぎません。今や中国の最大貿易国ははEU(13.8%)を抜いてASEAN (14.2%)です。
 こうした変化は決して中国の対外貿易の総量が低下した為ではありません。逆に大幅に増加しています。その為、中国対EU貿易依存度が低下したにも関わらず、2020年 EUの最大交易国はアメリカを抜いて中国になっています。

 2008-2020年、貿易構造にも大きな変化があります。貿易品目がかつての初期製品(第一次製品)から、工業製品にシフトしています。今日では工業製品が95.5%に達し、初期製品は僅か4.5%です。かつてよく言われた:「3億着のワイシャツを輸出し、ボーイング飛行機1機を買う」という構造はとっくの昔の出来事と言えます。
 ただ、残念なのは「嫌中反中」世論に埋もれた日本では、中国が今だ「安価な初期製品」を輸出し続けていると頑なに信じているようです。こうした“二周遅れ”の対中国認識が、「人口の老齢化や減少」、「人口ボーナスの消失」と「印度やアジアへのシフト」・・・ウンヌンと言った、ほとんどトンチンカンな「中国経済衰退論」「崩壊論」の根拠とされています。

 こうした成果を生んだのは「内循環」です。中国経済は2021年あたりから政策的にそれまでの「高成長路線」にブレーキをかけ、「公平=共同富裕」に向かいます。この数年で、「国連基準」で言うところの「絶対貧困層」をほぼ100%解消し、最も消費意欲が高いとされているいわゆる「中間富裕層」が3億人近くまで増えています。高速鉄道網や道路網に象徴されるインフラの拡充、通信、物流の拡充などによる地方の活性化が徐々に効果を現しはじめています。今後とも紆余曲折があるとは言えまだまだ広大な発展余地あります。
 その反面、これまで中国経済の高成長を牽引してきた資本の無秩序な発展にブレーキをかけ始めています。その為に不動産や娯楽、金融等が打撃受ける結果となっています。西側が騒ぎ立てる「中国経済の衰退」という論調はこの点を指しています。“木を見て森を見ない”典型と言えるでしょう。

 「内循環」の深化と市場の最大化が中国経済の未来を照らしています。中国一国の市場規模だけで間もなくアメリカを追い越します(今はアメリカの次ぎ、その差は僅か2%に満たない)。これにアメリカがまったく関与しない「RCEP」が加わり、さらに人口比で60%に及ぶ印太平洋地域や85%に及ぶアフリカ、中南米へと拡大されていくことでしょう。それを牽引するのが“3頭の馬車”と称される「完璧な工業サプライチェーン体系」、「インフラ力」、「新エネルギー」です。共に中国が最も得意とする分野です。「戦争、破壊、収奪」を得意とするアメリカに“出番”はありません。
 ところで、こうした潮流を阻止しようとするアメリカの3つの手札は徐々に失われつつあります。
1、軍事:2016年「南海対峙」での失敗
(*フイリッピンによるいわゆる「南海仲裁判決?」前日、その「結果」を中国に受け入れさせようと、米空母打撃群が南海に介入、中国は百隻以上の軍艦を動員しそれを駆逐し、ASEAN諸国は中国の南海での軍事優位を目の当たりにした)
2、2020年のカラー革命:「香港騒動」の失敗
3、経済:スイフトを含め、中国を世界経済圏からの締め出しを画策するも、「RSEPT」の成立で失敗

 中国は漢の時代から2つのシルクロードを通じて、世界に文明と技術を伝播し、アングロサクソンをはじめとする西側は17世紀から、アヘンと奴隷、大砲によって世界に「憎悪」と「分裂」を持ち込み、あらたな世界秩序=世界を支配し続けました。しかし長い人類史から見れば、この時代はほんの短い期間に過ぎません。世界は今正に、“正道”に向かう“起点”に立ったばかりと言えます。
2025/3/3  墨面 記