日本のマスコミがほとんど報じない「ニュース」№19

 ホワイトハウスでのトランプとゼレンスキーの“大喧嘩”が日本を含む世界で注目される中、ウクライナを巡る世界=特に欧米の“立ち位置”が誰の目にも明らかになりつつあります。そこであらためて、西側の報道から少し離れて、ウクライナ(戦争)をめぐる基本的な幾つかの事象や関連数字を整理しながら、この戦争から私たちがくみ取るべき教訓をあらためて見ていきたいと思います。
 先ずは、ウクライナの独立から、戦争に至る歴史を簡単にふり返ってみましょう。

1、「ウクライナ=弱小国」と言う誤解
 アメリカが衛星国のソ連離脱を画策、その後ソ連が解体します。1991年8月24日にウクライナが独立します。意外なことに、独立当時のウクライナは世界第3位の軍事大国と言えます。大陸弾道核兵器が1272発、戦術核兵器が2500発を保有していました。当時の中国は600発(1/6)、印度は100発です。
 加えて、世界有数の重工業地帯(主に東部)があり、ソ連時代の軍需産業の中心地でもあります。余談ですが、中国の最初の空母「遼寧号」はウクライナから買ったものです。(*装備を外した空っぽの枠だけですが・・・)
 経済的にも、農業に適する世界最大級の黒土地帯を擁した豊かな国です。1994年当時の人平均GDPは約1000ドルです(因みに当時の中国は半分以下の476ドル)。ウクライナ戦争の混乱最中にあってもウクライナが有数の農産物輸出国で、近年、その農産物が経由する隣国のポーランドの農民と軋轢がときおり報じられることからも推し量れるでしょう。
2、アメリカに翻弄されたウクライナ
 この豊かな国の状況を一変させたのが、1994年アメリカの主導によって締結された「 ブタペスト安全保障備忘録」です。これによって、ウクライナは核兵器の全廃と同時に、アメリカ、ロシア、イギリスがウクライナの安全と主権を保障するとされました。ウクライナが実質的にアメリカの保護下に置かれるわけです。
 その後、ウクライナでは「親ロ」政権と「親米」政権がせめぎ合いを繰り返しますが、2004年にアメリカが画策したカラー革命(*「オレンジ革命」と称される)が発生します。
 その年に行われた選挙結果(ヤヌカイッチ当選)に対し、アメリカの非政府組織「自由の家」、「アメリカ国際事務民主協会」に通じる「世論調査機関」が1000人以上の選挙監督員を訓練したうえで「出口調査」を行い、意図的にアメリカの傀儡である対立候補・ユーセンコ(*音訳)の優位を発表します。この「出口調査」を基に、選挙結果を「選挙不正」として民衆を扇動し、各地で抗議行動を起こします。因みにこの「オレンジ革命」を発動した“親玉”は今話題の「アメリカ開発署(USAID)」です。
 ついでに言うと、 ユーセンコの妻は、レーガン時代ホワイトハウスの職員で、ブッシュJr時代も財政部の職員です。彼女がCIA関係者だと言うことは容易に想像がつくでしょう。
 こうしたアメリカの手法はまったく珍しい事ではなく、特に中南米等の選挙で「反米」政権が生まれる度に、「選挙不正」を口実に民衆抗議を煽動する情景は見飽きたことでしょう。

3、「反ロ」と親米従属の深化
 任期の5年間、ロシアとの関係緊張と国内の混乱が続き、その後登場した政権が対ロ融和政策をとったことで、2014年にはほぼ同じパターンで2度目のカラー革命が起こされます。同じ国で2度カラー革命が起こされるのは希なことです。
 その後、こうした混乱が続き、ウクライナの経済も破綻していきます。ポピュリズムが社会に蔓延する中で、2019年、まったく政治経験の無い喜劇役者に過ぎないゼレンスキーが登場します。そればかりか役者仲間や、映画関係者が幕領の中心を占めるようになります。その一例が、戦争途中で解任された国防相(!)は何と、まったく軍務経験の無い撮影所に関わる(顧問?)弁護士であったことが知られています。無論こうした連中に戦争遂行能力も、政権運営能力もあろうはずはなく、実際はすべて欧米が派遣する顧問団が仕切っていたことは言うまでもありません。この頃から、ウクライナは既に実質的に「独立国家」の体をなさないアメリカの「傀儡国家」と言えるでしょう。

4、ウクライナ戦争勃発
 この政権は、アメリカに唆されて、EUとNATO加盟を憲法に明記することになります。“ルビコンの橋を渡る”行いと言えるでしょう。
 2022年2月、ロシアはこれまでの約束に従って、NATOに加盟させない書面確約を要求しますが、アメリカはのらりくらりと返答を引き伸ばしながら、その間、アメリカの情報員や武器が秘密裏にウクライナに運び込まれ、戦争する態勢を整えていきます。ドイツのメルケン元首相は、ロシアとの交渉(*ミンスク合意などを指す)は戦争準備のための“時間稼ぎ”であったと公言しています。
 こうした既成事実の積み重ねにしびれを切らしたロシアが、2022年2月24日にウクライナへの侵攻に踏み切ります。

5、ウクライナにとって最後の希望
 長引く戦争の末に、今の悲劇を避ける最後の機会が2022年3月末に訪れます。トルコで開かれた「ロシア・ウクライナ交渉」で停戦合意が達成されます。当時、ロシア側は大幅な譲歩を行い、クリミア半島など除外しつつも、ウクライナのNATO加盟を実質容認する内容でした。
 「停戦」が目の前に迫っていました。しかしそれを“良し”としないアメリカはすぐさま忠実な“ポチ”=イギリスのジョンソン元首相をゼレンスキーのもとに派遣し、合意を取り消すよう説得(脅し?)させます。そして同時にいわゆる「ブチャの虐殺」が西側のマスコミを総動員して拡散されます。「凶悪なロシアが無辜のウクライナ人を虐殺=そんなロシアと妥協するなど“以ての外”」という風潮がウクライナを覆い、この合意は反故にされます。またもや合意を一方的に反故にされたロシアはその後の交渉を拒絶し、全面的な攻勢に入ります。
 「停戦」から「平和」に向かう最後の機会がこうして失われました。ウクライナは徹頭徹尾アメリカに翻弄されたと存在と言えます。
 そして今日の事態に至ります。国土の約1/5(その多くは経済力が集中するウクライナ東部)、人口の約1/4(*最も少ない推定値です)を失い、何世代にもわたって返済しなければならない負債を抱え、そして今や「地下資源」さえ売り渡さざる得ない事態に陥っています。そればかりか「国自体の存亡」に関わる「停戦交渉」に参加さえさせてもらえないという悲劇に見舞われています。
 文字通り“骨の髄までしゃぶり尽くされる”事態を招いたのは何だったのでしょう。
 アメリカのキッシンジャーの名言です:「アメリカの敵になるのは危険で、アメリカの同盟国になるのは“致命的”である」

6、次ぎに、マスコミが垂れ流す数々の“数字”について見てみましょう。
 アメリカのトランプはウクライナに対し、これまでの支援(停戦?)の代償として当初「5000億ドル」(その後2/25には「10000億(1兆)ドル」に倍増)を求めています。この「5000億ドル」の根拠自体、トランプ特有のデタラメな“計算方法”によるものです。
 当初は「希少鉱物」の埋蔵量を基にしていましたが、これは単に数十年前のソ連時代の推定量で、今日ではウクライナにそれ程の埋蔵量がないことが分かり、今では一般の鉱物資源(鉄鉱石や天然ガス等)全般を対象にしはじめています。
 さらにこの「5000億ドル」自体が“絵に描いた餅”と言えます。2024年のウクライナの鉱物資源から得る収入は僅か11億ドルです。単純計算で、「5000億ドル」の利益を得るのに500年近く(10000億ドルなら約千年)かかります。一気に採掘を拡大できたとしても現実的な数字とは言えません。
 この(当初の)「5000億ドル」という数字は、これまでのウクライナへの支援額「3500億ドル」を根拠?にしていますが(*これでも充分“ぼったくり”ですが・・・)、世界中のどの資料を見ても、この「3500億ドル」自体がまったく根拠が無いものです。アメリカ国会が批准した金額の総計でも1760億ドルです。実態はこの数字から数々の“中抜き”が行われ、ゼレンスキー自身が、実際は760億ドルしか受け取っていないと訴えています。トランプの“算数?”では、「760億=1760億=5000億=10000億」のようです。

7、ところで、ホワイトハウスから追い出され、傷心のゼレンスキーを暖かく?迎えたのがイギリスをはじめヨーロッパの国々です。
 英国首相は抱擁で出迎え、国王に謁見する栄誉?さえ与えられました。そればかりかウクライナに22.6億ポンドの支援も約束しました。これは昨年の10月に既に約束していたものです。「贈与」ではなく「貸与」です。おまけにその担保も利率も明記されていません。ところで、何よりこのお金はイギリスのお金ではありません。凍結したロシアの資金からの捻出です。これはフランスも同じです。戦争終結と共にいずれロシアが返却を求めてくるのは必定です。そればかりか、「貸与」にはこの22.6億ポンドの内、16億ポンドはイギリスの軍備を購入するという付帯条件が付いているのです!さすがにイギリスが“邪悪な金融帝国”と言われるだけのことはあります!
 ウクライナと同様、交渉から“蚊帳の外”に置かれたヨーロッパ各国は声高にウクライナ支援を叫び、イギリスやフランスに至っては“停戦後”のウクライナへの“出兵”さえ言い出しはじめています。無論これには“前提条件”があって、「アメリカとウクライナの関係修復」と「アメリカの関与」が必須の前提条件となっています。これまた“絵に描いた餅”に過ぎないばかりか、EU委員長は、トランプに倣ってウクライナと停戦後の「鉱物資源の共同開発?」を提案しています・・・
 「民主」と「人権」を掲げながら・・・“死にかけたウクライナに寄ってたかって食らいつくハイエナども”=帝国主義の醜悪な姿を私たちは今、目の当たりにしています。
最後に、「ロシアによるウクライナへの侵略」は決して容認されるべきではありません。しかし、私たちがウクライナが陥った惨状を、こうした単純化した構図に留めるならば、歴史を教訓とする術を失ってしまいます。
 「民主」と「ポピュリズム」や帝国主義の本性を見間違え、私たちがある瞬間にでも、ある種の煽動と熱狂に陥った時、それは取り返しのつかない、何世代にもわたる悲劇に繋がってしまうのではないでしょうか?
 「南京大虐殺」が起こっているその最中、日本ではある種の熱気に染まり、「祝賀・提灯行列」に繰り出し、「暴支膺懲」を叫びながら、更なる侵略に突き進みました。そして今、「反中嫌中」という煽動に身を委ね、更なる軍拡と戦争準備に突き進む姿を目の当たりにすると、その思いを一層強くせずにはいられません。
                                     2025/3/11   墨面 記