日本のマスコミがほとんど報じない「ニュース」№20

 トランプによる台湾への「関税攻撃」がはじまる前に、台湾では半導体企業「TSMC(台積電)」が今後4年間にアメリカへ新たに1000億ドル(約15兆円)の「投資」を発表しました。既に決定している650億ドルを加えると、実に1650億ドルに達する巨額の「投資」です。「米国史上で最大かつ単一の海外直接投資」と位置付けられています。
 台湾の「TSMC」は、先端半導体では世界的に圧倒的なシェアを誇る、世界最大の半導体受託製造企業であると同時に、世界で最も時価総額と収益率の高い半導体企業の一つです。

 台湾にとって「TSMC」は決定的に重要な位置を占めています。この一社だけで、台湾全体のGDPの8%を占め、輸出の12%を稼いでいます。また台湾株価市価の35%(関連企業を合わせると60%を越える)を占めるという“お化け企業”です。それ故に台湾ではその経済的かつ戦略的価値から「TSMC」を「護国神山(*国の大黒柱、守り神)」とさえ称さえています。

 「TSMC」は先端半導体分野では、ほとんど“独占状態”にある圧倒的な技術力を誇っています。その為、戦略的に先端半導体の20%以上(*現在は10%以下)を“国産化”し、先進半導体のサプライチェーンを握ろうとするアメリカにとって、バイデンであれ、トランプであれ、「TSMC」は強奪すべき最大の“ターゲット”と考えています。その逆に、もし中・台両岸が統一するようなことがあれば、真っ先に「TSMC」を爆破するとさえ公言し続けています。文字通り「強盗の論理」です。

 バイデン時代には強力な圧力をかけつつ、さらに“アメ”(66億ドルの補助金)を加えて、アリゾナ州への650億ドルの先行投資に成功していますが、トランプはこの補助金さえ反故にして、「関税」で一本で脅しをかけ続けています。この1000億ドルの投資に対し、トランプは国会において、“(バイデンと違って)・・・一銭も払わず、「関税」を恐れてアメリカにやって来た”と豪語しています。

 先行するアリゾナ州への「投資」の時、数機もの大型航空機で、機材は無論、大勢の技術者が台湾からごっそりとアメリカに運ばれる様子を目の当たりにしていた台湾では、さすがに“媚米世論”が支配的とは言え、このニュースにテンヤワンヤです。“国の柱”とも言える企業を“のしを付けて”アメリカに差し出す行為に、当然のように民進党政府への反発と怒りが巻き起こっています。

 アメリカへの「投資(=移転)」によるコストの大幅な上昇と利益率の低下(*試算では現在の利益率50%以上が30~35%に低下)は必定で、この投資の背景に、一企業の経営方針を越えて、賴清徳・民進党政権の意思が働いたことは明らかです。民進党政権はさっそく「TSMC」経営者を同席させた記者会見を開き、「アメリカからの圧力は一切無く、この投資には政府は関与していない、企業の決定であり、先端技術が台湾から離れることはない、むしろこれによってアメリカとの関係が一層深り、米台関係は盤石になる・・・ウンヌン」と必死に抗弁していますが、今やそれを真に受ける人はいないでしょう。直後の世論調査で、アメリカへの“信頼率”が大幅に低下したことからも見て取れます。

 思えば、この「投資」は、これまでの民進党政権の言質とまったく矛盾するものです。常々「台湾にはアメリカにとって無くてはならない「TSMC」がある。だから中国の侵攻に対しアメリカは絶対に守ってくれる・・・」と宣伝していたにも関わらず、それを諸手を挙げてアメリカに“献上”したのです。このロジックから言えば、もはやアメリカに「台湾を守る?」必要性さえなくなってしまうのです。
 案の定、これと平行してアメリカによる台湾の「自主防衛」への要求がますます強まっています。国防費の対GDP比率を10%まで上げるよう求めています。これは台湾国家予算の約4/5にあたる数字です!無論これはまったく現実味のない、トランプ特有の「極限戦略」に過ぎませんが、現実的にも来年度の5%引き上げを求めています。加えて兵役を男女問わず、2年に延長するよう求めています。さすがにこれは政権基盤そのものを揺るがす要求ですが、賴清徳政権はいずれヘラヘラとして受け入れることになるでしょう。こうした「自主防衛」に対する途方もない要求は、裏を返せば、アメリカが手を引くというメッセージに他ならないことを台湾の民衆も薄々感じはじめています。

 日本の自民党や韓国の尹政権でさえ、これほどあからさまな「媚米=売国」行為はやらないでしょう。アジアの「四小龍」と称された台湾における今日の経済発展は、国連から追放された後の“危機”に際し、蒋経国総統時代に行った「十大建設」が礎となったものです。方や「台湾を愛する」、「民主の価値」、「抗中保台」「台湾独立」等など空虚なスローガンを叫ぶだけで、台湾民衆が営々と築いた“遺産”をアメリカに売り渡し、台湾民衆の命を戦争の際に追い込むことしかしない(できない)「民進党政権」は、いったい台湾の建設にどれ程貢献したのでしょう。収賄のかどで収監された「民進党」初代総統の陳水扁は恥ずかしげもなく:私の最大の功績は“台湾意識”を高めたことであると嘯いています。これを言い替えれば、任期中、台湾の発展と建設を蔑ろにして、台湾民衆の(反中国)敵愾心を煽り、平和を遠ざけたということに他なりません。

 日本植民地時代の「対日協力者」、「親日派」を源流とする「民進党」を今以て「進歩的」「民主的」と誤認し続けるリベラルと称される人々を含めた日本の世論こそが、その実、「民族分断」という悲劇を支え、アメリカをはじめとする帝国主義収奪に手を貸し、果ては「台湾有事は日本の有事」という妄言を信じ込ませる下地になってはいないでしょうか?!
                              2025/3/22  墨面 記