トランプが「相互関税」を打ち上げた後、こと中国に対しては、ほとんどコミックとさえ言えるトランプの「一人芝居」と「独り相撲」(=“習近平とは良好な関係”“すぐにでも電話が来る”“中国側が協議を望んでいる”・・・・ウンヌン)が続いています。残念ながら中国側は(“誠意”を前提に)「話し合いを望むなら扉を大きく広げ、闘いたいなら最後までお付き合いする」という原則的立場を表明するにとどめ、ASEANやアフリカ諸国との協議に忙しく、このトランプの茶番に付き合う気も、暇もないようです。
アメリカの二大「消費ピーク」=「9月(*入学シーズン商戦)」と「12月(*クリスマス商戦)」を目の前にして、絶対的シェアを占める中国商品の枯渇にアメリカの小売業者から悲鳴が上がっています。それ以上に深刻なのは「希少鉱物(レアメタル)」の枯渇です。トランプが中国との交渉を焦る所以です。
アメリカ(トランプ)にとって、「日用品の枯渇」はまだ些細な問題です。「庶民層」の“票”に価値はあっても、その民生=困窮に何ら興味は無いでしょう。しかし「レアメタル」は“致命的”です。「製造業の回帰」を吹聴するトランプにとって、その“目玉”である「自動車産業」を直撃するどころか、「先端兵器」の製造に際してはなくてはならないものです。トランプが「白旗」を挙げざる得ない状況に追い込まれていた故の、ジュネーブ会談(*中国は“接触”と表現)はその結果といえます。
ジュネーブ会談では、大方の予想に反し、一応の「合意」が成され、合意文書の発表がありました。トランプが中国に特化してかけた「高関税」を、相互が基本税率の10%を残して「全廃」したのです。残る「フェンタニル」の追加関税「20%」についても中国の出方によってはいつでも撤廃されるものです。いわば、トランプが仕掛けたこの「関税戦争」が実質的に“リセット”されたようなものです。
欧米を含む世界のマスコミはこの結果を「トランプの全面降伏」と表現したのも当然と言えば当然です。この間、世界ははっきりと中国経済の強大さと、中国社会が示した強靭さを目の当たりにしたことでしょう。 ランド研究所中国研究センターの研究員は:「経済力がものを言うというのが今回の教訓だ」と分析。「中国にとっては戦略的な正当性が証明された。製造業と自立に重点を置く習主席の戦略に対して、少なくとも経済安全保障の観点からは異論を唱えることが一段と困難になった」と語ったのはその典型です。
以前の「当ニュース」で述べた通り、この結果を基に、各国(*日本を含む)はアメリカとの交渉で、“様子見”と“引き延ばし”に転じています。当初、75カ国が交渉を求めて「kiss
my ass(私の尻を舐める)」為に列を成していると豪語するトランプでしたが、これまで合意にこぎつけたのは(*実質的な意味の無い)「イギリス」一国だけです。
焦ったトランプが「期限までに“最良の提案”がなければ、更に厳しい課税をする」と言い出す始末です。
ジュネーブで一定の「合意」が成されたとは言え、無論中国はもとよりアメリカ(トランプ)の“誠意”を信じたわけではありません。案の定、合意の翌日(!)からアメリカは中国に対し、新たな半導体制裁や民用航空機のエンジンの輸出禁止、ファーウエイをはじめとする中国製チップの使用禁止(他国が使用した場合も二次制裁)、さらには主に中国留学生をターゲットにしたビザ取り消し等などを矢継ぎ早に発表しました。
そればかりか、滑稽至極なことにトランプは「中国が合意を破ったから」と言い出す始末です。言うまでもなく、これは「希少鉱物(レアメタル)」のことを指します。再びトランプの“一人芝居”の開幕です。 この「合意文書」に「希少鉱物」に関し、“一字”として触れていないばかりか、「合意」翌日には、中国当局はわざわざ記者会見で今回の合意に「希少鉱物」は含まれていないと公言しています。常識でも分かる通り、中国にとって国家的戦略物資(王牌=切り札)である「希少鉱物」を安易に「交渉カード」として手放すはずはありません。
トランプの「一人芝居」が続きます。しびれを切らしたトランプからの電話を、中国側は5日になってよくやく受け、ロンドンでの第2回目の協議にこぎつけた次第です。
ロンドンでの協議(と成果?)については、日本の新聞も含めて世界中で多く報じられています。少なくとも表面的には「ジュネーブ合意」の再確認が行われただけです。合意文書の発表もなく、細目、細則も公表されていません。その反面、協議終了直後から、トランプとその関係経済閣僚のにぎやかな発言だけが一方的な流されています。反して中国側の発表は簡略的なものに止まっています。
またまたお得意の「一人芝居」「自己陶酔」の羅列です。「対中関税55%に対し、対米関税10%」「レアメタルの開放」「先端半導体制裁の堅持」・・・ウンヌン。要は、「アメリカが中国に勝った」と言いたいようです。
トランプ政権の苦渋も理解できます。最近、特に金融界での流行語=「TACO(Trump Always Chickens Out)=トランプはいつも怖じ気づいてやめる」を例に挙げるまでもなく、もはやトランプの“強硬な姿勢?”を真に受ける人はそう多くはないでしょう。それでも“熱狂的シンパ”に対しは“華々しい成果?”を吹聴するしかないようです。
詳細は省きますが、対中関税「55%」、ジュネーブ合意から増えた「25%」は、トランプ(1.0)時代からバイデンに引き継がれた、元からあった対中国課税で、今回の交渉に何の関係もないものです。因みにこの課税に対する中国側の対抗処置も残されたままです。
また「レアメタルの開放」についても、中国は「管制処置」を残したまま、規定通りに「6ヶ月」の期間限定で審査の上、使用目的を限定して提供するというものです。
「半導体制裁」についても、元々“「半導体制裁」と「レアメタル禁輸」の取引”というのは、トランプの“淡い期待”に過ぎず、中国側がそのような発言をしたことは未だかつてありません。「半導体」と「レアメタル」はまったく“異次元”の「カード」です。おそらく、もし中国が「レアメタル」をカードにするなら、まったく別次元の“政治目的”に使うでしょう。「先端半導体」の克服について言えば、中国がとっては“時間の問題”に過ぎないからです。
・・・・「留学生の認可?」に至っては、“アホらし”過ぎます。当然「原則論」として中国は抗議しますが、困るのはアメリカで、中国は内心大歓迎と言ったところでしょう。
こうした茶番が熱狂的な「トランプシンパ」にしか通用しないのは明らかです。欧米のマスコミ(日本でさえ)を見ても、トランプ陣営が吹聴する「成果?」を真に受ける報道はほとんどありません。その逆に中国が「レアメタル」を通じて発揮した「発言力」の大きさに注目が集まっています。何より、アメリカ国内において、こうした華々しい「成果?」にも関わらず、株価が微増に終わっていることからも、アメリカ社会がトランプの発表をまったく信じなくなったことを如実に表しています。
これまで述べてきた通り、中国がこうした交渉を急ぐ理由はまったくありません。トランプによる「相互関税」発動後、米中貿易は確かの激減していますが、その他各国との貿易は逆にその減少を補う以上に増加しています。輸出先の移転(多角化)を僅かの期間だけで完成させています。方はアメリカでは中国商品の「代替」はほとんど進んでいないのが現状です。
また、「AI半導体」をはじめとする先端技術に関しても、これまで以上の打撃にはなっていません。それも当然で、トランプ(1.0)から、バイデン、そしてトランプ(2.0)に至る期間、“でき得る”「制裁」は既にほとんど“出尽くしている”と言っても過言ではないからです。
最後に、レアメタルやその「管制処置」について多くの誤解があるようなので、中国と世界にとっての「レアメタル」のもつ意味と位置、さらには今回の交渉で明らかになった中国の交渉技術とその思想について、後日あらためてさらに詳しく述べたいと思います。
2025/6/15 墨面記